斎藤環 


ひきこもりは誰にでもなる可能性がある。従って、なぜなるのか?というよりもなぜ抜け出せないか?を問うべき。原因の追及は実を結ぶことは少ない。斎藤氏はコミュニケーションという言葉は嫌い*1だそうだが、このコミュニケーションを重視しなければならないという。


インターネットで社会とのつながりを持っているというのは救いがある。もちろんネット依存については別途に考える必要がある。(アルコール依存や薬物依存と同じ扱い)


ひきこもり家庭にとって大事なのは「無駄なコミュニケーション」であるという。斎藤氏は「毛づくろい的コミュニケーション」と呼んでいるがこれが大事であるという。ひきこもりの当事者と親の間にかわされるコミュニケーションはしばしば先鋭化する。先鋭化とは過剰に意味を持ちすぎるということだ。例えば、いつまで引きこもってるんだとか、働けなどの説教。意味がありすぎる上に、本人は言われることの予想が付いているので、「親に言われてやる気がなくなった」などと感じる。このようなコミュニケーションは全くの逆効果である。


まずは「挨拶」からだと斎藤氏は言う。挨拶というのは無駄なコミュニケーションの代表であるという。また、無意味な褒め言葉も見透かされるので逆効果。


本人が家族にとって必要な存在であるということを伝える。伝える手段は言葉ではなく行動で。百発一中くらいの確率かも知れないが、やる価値はあるという。


家族ができることはここまで。家族のできるのは「本人の環境をくつろげるものにすること」までだと斎藤氏は言っていた。


斎藤氏はインターネットを推奨する立場をとっている。相談に来た人にはまず「ネット環境を整えて欲しい」と言うそうだ。インターネットでコミュニケーションに参加するかは分からないが、コミュニケーションをしようとする欲望は湧くことは期待できる。


インターネット上には外出マニュアルがある。外出マニュアルをはじめ有益な情報がある。
参考リンク:Hiki-Link/ひきこもりのための外出マニュアル


ひきこもり当事者はしばしばインターネットのコミュニケーションをニセモノだと感じることがある。つまり、純粋性を求める*2。相手が100%理解してくれないとコミュニケーションをとろうとしないなどという傾向があるのも純粋を求めるから。


ひきこもりの当事者がインターネットに飛びつくということは、まずあり得ないと斎藤氏は言う。インターネットをするようになっても、多くの場合書き込みはせず見ているだけになるだろう。


良い点ばかりではなく当然デメリットもある。それが一部に見られる「中毒化」である。掲示板・チャット・ネットゲームが依存(addiction)になる場合もある。幸いにして、韓国とは違い日本ではネットゲームが爆発的なブームになっていないので、ネットゲームにはまるという確率は韓国よりも少ないだろうと斎藤氏は言っていた。


斎藤氏が韓国に行った際、気になったのは友達5人くらいでPCバンに入っていって、5人で同じゲームの中に入り、ネットゲームの中で遊ぶという行動であったという。ネットゲームというと個室で一人でやっているというイメージが強いが、まるでゲームセンターのアーケードゲームのような使い方がなされている。韓国ではインターネットの世界は現実世界を補強するように使われているのではないかということだった。


ひきこもりは最初は選択的にひきこもったと言えるかもしれないが、抜け出すことは非常に難しい。従って、支援・治療ということが必要になってくる。


斎藤氏はネットゲームは一日5時間までという時間制限を設ける必要があるという。5時間というと多い気もするが、ネットゲームははまれば一日中でもできるものなので、5時間は長いというわけではない。リビングにパソコンを置くと良いかもしれないという発言もみられた。


インターネットやネットゲームを家に導入する際には、必ず親と子が契約関係を結ぶことが必要であるという。ネットゲームを制限時間以上するとプロバイダ契約を打ち切るというような契約を行うことを斎藤氏は勧めているという。


また、インターネットやパソコンは年配の方は苦手で若年層は得意なことが多い。子供を教師にして親が教えてもらうということが可能なので、コミュニケーションのチャンスになるということだ。

*1:まずは家族の関係性があるべきだからだそうだ

*2:宮台氏の講演で「退却」の話に該当する箇所